なぜ、mixiアプリには、バグが多いのか?

すいません、随分と挑戦的なタイトルをつけてしまいましたが...

私自身、『サンシャイン牧場』や、『はじめようマイ・バー』などのmixiアプリを楽しく利用しています。
やり始めると、なんとなく中毒性があるというか...、一日でもログインを怠ると、微妙な罪悪感にさいなまれるのが、なんとも興味深いのですが。

mixiアプリや、GREE、モバゲーなどは、ソーシャルゲームと呼ばれています。
wikipediaには、以下のように説明がありますね。
ソーシャルゲーム(英語: Social Game)は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスSNS)上で提供され、他のユーザーとコミュニケーションをとりながらプレイするオンラインゲームである。』

間接的ではあるものの、友人たちとのコミュニケーションを図ることもできる、これらソーシャルゲーム
ログインしていない友人がいると、妙に心配になったりもします。
この緩やかなコミュニケーション実現が、中毒性の一因かもしれません。

ところで。
仕事柄なのかもしれませんが、mixiアプリを楽しんでいると、そのバグの多さに、いらっとすることがあります。
例えば、『はじめようマイ・バー』の場合。

ゲーム進行自体に問題はありませんが、このように、デザイン・ポリシーが守られていないところなど、かなりいらっとします。
もちろん、このような無害な(...?)バグだけではなく、アプリのコミュニティには、毎日のようにバグ報告がコメントされ続けており、実際にこのよなバグを不快に思い、利用をやめてしまうユーザーも少なからずいるようです。


これは、『はじめようマイ・バー』のみならず、mixiアプリの、特に人気のある育成系ゲーム全般に言えることのように思いますが、一般的なアプリケーションに比べると、バグは確かに多いように思われます。

これは、なぜでしょう?

本Blogでは、ひとつの推論として、mixiアプリのビジネスモデルが、mixiアプリの十分な運用保守体制を維持できるような収益モデルになっていないのではないかという仮説を推定検証したいと思います。


ここでは、『はじめようマイ・バー』の運営会社における売り上げを推定してみました。
各種公開されている統計データなどをもとに、計算してみると、以下のように、一か月あたりの売り上げを、8,503,099円と推定しました。

推定の過程そのものを語るつもりはないので、興味のある方は、どうぞ検証してみてください。
こちらにPDFデータもありますので。


この売り上げをもとに、運営会社におけるコストとプロジェクトの体制を推定してみました。


この想定は、妥当な線かと思うのですが。
約30%の粗利を確保しようとすると、運用保守体制人員として2名程度しか用意できないものと推定します。
実際には、新規開発チームがフォローに回るケースもあると思うのですが、mixiアプリそのもののバグだけではなく、課金アイテムの決済システムに対するバグ、つまり外部システムとの連携のフォロー等も考えてみると、運用保守体制人員:2名というのは、きわめて脆弱な体制と言えます。

乱暴な推測にはなりますが、一日8時間の労働時間のうち、バグの確認(内容把握および現象再現)に1.5時間、各所との調整に1時間、対処方法の検討と決定に1.5時間かかるとすれば、実際にバグ対応を行うのは、4時間程度しかありません。バグ対応においては、コーディング工数の2倍から3倍の時間を検証テストに費やすので、そうなると、本当の意味で、バグ対応のコーディングを行う時間は、一日/一人当たり2時間弱程度でしょう。
このような環境で、2名しか保守運用人員がいないのであれば、バグ対応も追いつかないのは当然かと。


ちなみに。
このように、ある事象を、限られた手がかり(必ずしも正確ではない)を元にシミュレートする考え方を、『フェルミ推定』※と言います。
ある物事の概観をつかむにはきわめて有効な方法で、私もたびたび利用するものです。
なので、上記の推定に間違いがあっても、それはあくまで『推定』でしかないので、怒らないでください(言い訳です...)


さて...
以上のように、mixiアプリを始めとする、ソーシャルゲームについて、下記推論を展開させていただきました。
mixiアプリのビジネスモデルが、mixiアプリの十分な運用保守体制を維持できるような収益モデルになっていないのではないか?

日常的にも、初期コストだけに気をとらわれ、運用コストを考えると、どうにもやりくりが厳しくなってしまう状況というのは、ままあることであろうと思います。例えば、高級車を購入したものの、ガス代、車検費用ランニングコストを捻出するために、安アパートに住んでいる人とか。僕の友人っで、BMWに乗っているものの、洋服にかける金がなく、スーツとパジャマしか持っていないという奴がいましたが。

同様のことは、ホームページやアプリケーション開発、ソリューション導入などでも、ありうることです。
私の経験上ですが、ホームページ・リニューアルの場合、リニューアル公開後、約三ヶ月から半年の間は、頻繁にコンテンツの更新が発生します。
これは、ホームページが新しくなったことにより注目が高まり、社内外からコンテンツに対する様々な指摘が発生することによって、自ずと発生するものなのですが、この費用、つまりリニューアル後のコンテンツ更新費用を予算化していないケースがあります。
もし仮に、更新費用がまったく存在しない場合、せっかくホームページに対する意見を出してくれた社内外の好意を、ホームページ担当者は、すべて無視し、だんまりを決めこむしかない状況に追い込まれます。
これは、ホームページそのものの品質向上の観点からも大きなマイナスですが、せっかく高まったホームページに対する社内の意欲を削ぎ、何よりもホームページ担当者に対する評価を下げてしまいます。

私の場合は、クライアントの状況を判断した上で、ホームページ・リニューアル費用の5〜20%程度を、あらかじめリニューアル後一定期間のコンテンツ更新保守費用として含んだ見積を提案していました。

大きな開発の際には、イニシャル・コストのみを気にしがちですが、必ず運用費用が発生することを留意しなければなりません。アプリ開発、ソリューション導入に関しては、わりにその意識があるように思いますが、ホームページ・リニューアルでも同様であることは意外と忘れられがちではないかと考えます。

もうひとつ。
これは、ホームページ、アプリ開発によらず、制作会社に、運用フェイズでの対応余力があるかどうか、きちんと事前確認しておく必要があります。(特に外注に制作委託をしている制作会社にありがちなことですが、)制作リソースに余裕がないため、開発はできるが、メンテナンス/改修などの対応ができない制作会社というのは、意外に多いものです。

コンペなどを行う際には、運用フェイズでの対応能力も、きちんと制作会社に確認しておく方がよいでしょう。

以上、本blogは、『ホームページ担当者』のお役にたつことを目的としていますので、いちおう(mixiアプリに関する私の推論だけに終始するのではなく)は、担当者の皆様に対するメッセージも付記しました。


余談:
フェルミ推定については、『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミパラドックス』に詳しく書かれています。フェルミ推定とは関係なく、本書は実に興味深い本なので、興味のある方は、ぜひご一読をお薦めします。わたしは、『科学は必然ではない』という項が大好きです。