ユーザビリティから考える、ガイドラインの役割 前編

何回かに分けて、ホームページの構築、運用時におけるガイドラインの役割について、お話ししていきたいと思います。
(なるべく、話が難しくならないように頑張ります!)

まず、ガイドラインとはなんでしょう?
Wikipedia では以下のように記載があります。

ガイドライン(英語:guidelines)とは、 ある物事に対する方針についての大まかな指針・指標。ルールやマナーなどの決まり事、 約束事を明文化し、それらを守った行動をするための具体的な方向性を示すもの。 」

ざっと、こんなことを解説していこうと思っているのですが。


今回は、「ユーザビリティ」を例に、ホームページにおけるガイドラインの役割を考えたいと思います。

さて。
ユーザビリティ、最近あちこちで聞かれる言葉ですね。
例えば、近頃のホームページ・リニューアル・コンペでは、まず間違いなく、この言葉がRFP(入札仕様書)に登場することでしょう。
また、日経パソコンなどでは、企業ホームページを対象に、ユーザビリティ・ランキングを定期的に発表していたりもします。

ところで、このユーザビリティについて、明確な規格が存在しないことはご存じでしょうか?
  注記:ここでいう「明確な規格」とは、同じ観察物に対し、異なる観察者が評価を行ったとしても
      誤差の範囲で同じ評価が下すことのできる判断基準としての規格とします。

     

まず、ユーザビリティについて簡単にご説明します。Wikipediaでは、ユーザビリティについて、以下のように説明されています。

ユーザビリティ (英語:usability) とは、use(使う)とable(できる)から来ており「使えること」が元々の意味である。使いやすさとか使い勝手といった意味合いで使われることが多いが、その語義は多様であり、関連学会においても合意された定義はまだ確立されていない。』

詳細はWikipediaをご覧ください。
記載されているとおり、ユーザビリティについては、ISOの中にも、ISO 9126、ISO 9241-11のふたつが存在します。さらに、Webユーザビリティの専門家であるヤコブ・ニールセンの定義についても、(一部勘違いされるケースも多いのですが)ISO 9241-11とは似ているけれども異なるものです。

前述の、
ユーザビリティについて、明確な規格が存在しない』
その理由は以下のとおりです。

  • 規格および参考となる文献が複数あり、かつどれを優先すべきものか、デファクト・スタンダードな見解が認められていないため
  • 数値等による明解な基準が示されておらず、その解釈に複数のバリエーションが発生しうるため

「数値化できない目標は『実行できない』とイコール」と言ったのは、カルロス・ゴーン氏でしたが。
あるホームページについて、ユーザビリティについて、特に後者の数値等による明確な基準が示されていないことは、ユーザビリティ評価(もしくはユーザビリティ診断)を行う上で大きな問題となります。

しかしながら、実際には、「ユーザビリティランキング」なるものは、世間に公開されています。『ユーザビリティについて、明確な規格が存在しない』以上、このようなランキングや、ユーザビリティ診断といったものは無意味(もしくは根拠のない)なものでしょうか?
いえ、それは違います。
なぜならば、ユーザビリティ診断を行うこういった企業の多くは、ISO 9126、ISO 9241-11、もしくはヤコブ・ニールセンの定義を参考に、より詳細に基準をブレイクダウンしたり、各社の見解を加えた独自の評価基準を備えているからです。

例えば、ユーザビリティ診断を行い、ランキングを公表しているところでは、トライベック・ストラテジーや、日経パソコン*1がありますが、その診断項目は、一見大きく異なるようにみえます。
しかしながら、基本となる診断ポイントについては、重なる部分が少なくないこと、そして各々の評価ポイントは、大分類から小分類へとブレイクダウンされており、より客観性をもって診断を行うことができるように(異なる人が診断を行ったとしても、おおむね評価が同じ傾向に固まるように)工夫されています。

このあたり、つまりISOや各社診断基準の関係性を示すと、以下のようになるのでしょうか。

A社は、ISO9126およびISO9241-11およびヤコブ・ニールセンの定義をベースに、ユーザビリティ診断基準を定義。
B社は、ISO9241-11およびヤコブ・ニールセンの定義に、さらに独自基準を追加し、ユーザビリティ診断基準を定義。
C社は、ISO9241-11に独自基準を追加し、ユーザビリティ診断基準を定義。

上記はあくまで例であり、もっと他のパターンもあるかと思います。また私のユーザビリティに対する関係認識を示したものなので、異論がある方もいるでしょう。*2


要は何が言いたいかというと。
ユーザビリティに関して言えば、厳密かつデファクト・スタンダードとなる定義と基準が存在しない以上、独自見解を加えた基準が存在することはやむを得ない。ただし、そうは言ってもまったく独自の基準が許されるのではなく、基本精神(ISO9126、ISO9241-11、ヤコブ・ニールセンの定義を指します)を尊重し、かつ『同じ観察物に対し、異なる観察者が評価を行ったとしても誤差の範囲で同じ評価が下すことのできる判断基準』を行うことができるレベルにまで、ブレイクダウンされたものがないかぎり、それは基準として認めることは難しいということです。


さて。
この、『ユーザビリティ診断を行う診断元が定義したユーザビリティの基準』、これこそがガイドラインに求められるもののひとつであり、ガイドラインの定義の一要素である、『ある物事に対する方針についての大まかな指針・指標』を示すものになります。


ユーザビリティを備えたホームページを目指すことは簡単です。
でも、完成したホームページに対し、何をもって『これは、"ユーザビリティを備えたホームページ"です』と宣言しているのかということを示すは、決して簡単なことではありません。
そのためには、あらかじめユーザビリティに対する定義を決定し、その定義を満たすための条件を明確にしておく必要があります。
その条件が基準(指標)であり、これを記録し、周知させ、そして記録しておくべきものが、ガイドラインになります。


ところで。
冒頭の図表において、指針・指標は、『ホームページ構築時の目標と 深く関係する』と記しました。
逆に言うと、指針・指標は、『ホームページ構築後の運用時に 深く関係する』ことはないのでしょうか。
(ここでいう、『指針・指標』とは、これまで言ってきた『基準』と同義とお考えください)

指針・指標は、ホームページの構築時であろうが、運用時であろうが、常に重要なものであることは間違いありません。
しかし、運用時に指針・指標を常に意識することは現実的には難しく、『ルールや マナーなどの決まり事、約束事』、つまり運用ルールによって作業を規定することで、指針・指標が守ろうとするホームページの品質を守ることを目指す方が、現実的であり効率的であると私は考えています。

例えると。
節電を目的とした場合、下記は基準に相当します。
『事務所内の一時間当たりの消費電力を、10キロワット以内に抑えること』
数値としては明確ですが、これを都度確認することは面倒です。
なので、以下のように、事務所内の社員に通達を出すとします。
『外出時はPCの電源を落とし、また事務所内のクーラーの設定温度は、28度以上にすること』
これがルール(運用ルール)ですね。

次回は、ガイドラインの役割のうち、ルールについて考えたいと思います。


余談:
自転車が好きなんですけどね、私(しつこいですかww)
片山右京さんの主催される『グッド・チャリズム宣言プロジェクト あらかわミーティング』、auの主催した『スマートサイクリングの輪を広げよう!』など、立て続けに自転車(特にスポーツサイクル)と社会の共生を考える場に参加してきました。

考えさせられたのが、マナーとルールの境界。
例えば、ちりちりとベルを鳴らし、歩行者を強制排除(恐喝??)しながら歩道走行をする自転車。ベルを鳴らして歩行者を排除することがマナー違反で、歩道走行がルール違反だと思っている人がいると思うのですが、これは両方ともルール違反(道交法違反)です。
一方、道交法に関する権限を持たない河川管理事務所が決めた、荒川サイクリングロードにおける自転車20km/h速度規制を守らないことは、ルール違反でしょうか、それともマナー違反?

ルールを知らないことは法治国家に生活する者としてNGですが、マナーを守らないことは人としてNGだと最近つくづく思います。

私自身も気を付けよう....

*1:日経パソコンは近年ユーザビリティ固執せず、サイト全体を広い視野で評価したランキングを公表

*2:あくまで私見ですが、ことWebユーザビリティに関する限り、ISO9126が軽視されている傾向があるように思います。しかし、Webアプリケーションや、RIA(リッチ・インターフェイス・アプリケーション)をユーザビリティ診断対象に拡大した場合、ISO9126はもっと尊重されてしかるべきと考えるのは自分だけでしょうか...